<夕焼け事件ファイル02 泥ダンゴ殺人事件>


私が小学4年生の頃の話である

私は放課後に数人の友達と遊んでいた
案の定、目的などは無くブラブラとしていたのだが、ちょうど
駄菓子屋が近くなって来たので、そこに向かおうと言う事になった。

駄菓子屋の名前は
「ミッキー」
メルヘンチックな名前だが、極めて平凡な駄菓子屋。
ウォルト・ディズニーが知ったなら、眉をしかめるような店ではあったが
我が小学校では人気のスポットであった


↑今も看板だけ残っているミッキー


私はその駄菓子屋に4〜5台置いてあるゲームを見るのが好きだった
いや、ホントは見るだけで無くやりたいのだが、1回50円もするので手が出ない。
当時の私の小遣いが月300円なのを考えると、いかに巨額な費用か
お分かり頂けよう。

だったら同じ50円で
科学のお菓子を沢山買って、ゲームを
観戦していた方がイイ! と、当時の私は考えていた。

思わず貧乏小学生の駄菓子屋論を展開してしまったが、実は今回
駄菓子屋など全然関係無かったりする(なんじゃそら)

そう、ミッキーまで目前に迫った我々一行は、ゲーム観戦よりも
魅力的な光景を目にしたのである。

それは当時では至る所にあった
空き地の一つだった
広さは50平方メートルくらいだったろうか
広い黒土の開けたスペースがあり、奥には背の高い木が何本か生えていた。

普段ならスルーするポイントなのだが、この日は違った
なんと十数人の子供達が
泥ダンゴを投げあって合戦をしていたのである
しかも違うクラスの同級生が上級生チームと必死に戦っていた。

おいしい! 
なんとおいしい遊びをしているんだ、キミ達は!
目撃した私は瞬時にそう思った
恐らく、他のみんなもそう思ったに違い無い
その証拠に次の瞬間には一同ダッシュで戦場へと向かっていた・・・
もちろん私達は同級生チームに入った。

ちなみにこの泥ダンゴ合戦
恐らく自然に始まったのだろう、ルールなどは無く
ただ単に足下の黒土を丸めて相手に投げるだけである。
構図としては
外野のいないドッヂボールみたいな感じで
両軍の中間くらいまで出て、投げては陣地に逃げ帰るだけで
執拗に追いかけまわして泥ダンゴをぶつけるワケではなかった。

ありがちな話だが、上級生と遊ぶと下級生はあまり楽しく無かったりする事が多々ある。
損な役回りを強要されて、上級生の遊び道具とされてしまったり
やりたい事をやらせてもらえなかったりするのである。

かく言う私も、兄の友人達と仮面ライダーごっこをする時はいつも
アマゾンをやらされていた・・・・

ショッカーでないだけマシと思われるかもしれないが
私はスカイライダーがやりたかった!
ついでに言えばアマゾンは嫌いだ!
仮面ライダーというのは基本的にはバッタがベースの改造人間なのに
ヤツは何故か
トカゲがベース・・・・
当時でもその存在はかなり浮いていて、誰もやりたがらなかったので
年下の私がいつもやらされていた。

今思えばバッタとトカゲ
どっちがベースでも不幸なのだが、当時は深刻な問題で
幼い私を苦しめていた。

泥ダンゴ合戦の話に戻ると、この時の上級生は上記のような事など無く
とても紳士的であった。上下関係はナシで、みな泥ダンゴの投げあいを
純粋に楽しんでいた、当てた人間も当てられた人間も笑顔!

なんともほのぼのしていたが、同時にスリルと快感もあるという
魅力的な空間・・・・そう、まさしく小学生の理想郷がそこにはあった。
こんな時間が永遠に続いたらどんなに幸せだろう
みなそう思っていたに違いない。

しかし、理想郷とはしょせんは理想でしかなく、はかない夢なのだ
いずれ、何者かによって現実に引き戻される事になる・・・
小学生にとって、何者とは
普段は「親」であったり「時間」であったりするが、その日は
私がそこにいた全員を現実に連れ戻してしまった。


泥ダンゴの投げあいは依然続いている
私は当時ドッヂボール大好き少年で、それはもうノリノリで泥ダンゴを投げ続けていた。
ターゲットを捕らえる為に、泥ダンゴを作る時も
常に前方を睨みつつ、手元を見ずに手探りで作る
丸ければなんでもイイ! それくらいの勢いで次々と投げていった。

しかし、所詮は下級生の肩・・・なかなか当たらない
それでも必死で投げ続けていると、ついにチャンスが現れた!
両軍の中央まで出て来た上級生の1人が、投げ終わった後に
こちらに背中を向けてゆっくりと歩いているのを発見したのだ!

チャーンス!!
ハイエナのごとく、無防備な彼に思いきり泥ダンゴを投げつける!
そして、私の豪速球は放物線を描いて見事に
後頭部へ命中したのだった。

一瞬の判断、精密なコントロール、そして命中・・・・
私はひょっとしたら、ニュータイプではないだろうか?
それほどに酔いしれる一撃であった。

だが、酔いから覚めるのは早かった・・・
上級生の様子が変なのだ。

タァーイム!

上級生の1人が大声で叫ぶと同時に、みんな彼の所へ集まりだした。
私はと言うと、心配するどころか心の中で
「おいおい、いくら後頭部だからって、大袈裟なんじゃない?」
と、思っていた。更には自分の肩が強すぎて破壊力がケタ違いなのかも・・・
などと、今思えばストーカーのような勘違いまでしていた。

それでも
うずくまってしまった上級生の前でガッツポーズをするワケ
にも行かないので、とりあえず神妙な顔を作り、彼の所へ走り寄る

そして、私が駆け寄ると同時に上級生の彼は
力無く立ち上がった・・・・


・・・・!!

その瞬間、みんな固まってしまった。
もちろん私も例外ではなかった・・・・と言うか
私が一番ビックリしたに違い無い

なんと彼の後頭部からは

がしたたり落ちていたのである!

理想郷が音を立てて崩れ去っていく
ついさっきまで、妖精が飛び交う理想郷だったのに・・・
流血という超リアルな光景を見せられて、そこにいた十数人の子供達は一瞬にして
神奈川県座間市のさえない空き地に引きずり戻されてしまった。

え? ええっ? 泥ダンゴなのに血!? 
威力? 角度? なんで? どうして?

パニックになる私

そんな私を知ってか知らずか
上級生の1人が的確な答えを叫んでくれた

誰だ! 泥ダンゴにを入れたヤツは!!

その瞬間、私に電撃が走る・・・
アニメならガイコツが見えるほど
香港映画ならスローで3回繰り返すほどの衝撃だった。

石入りの泥ダンゴ・・・それは今この場所では
核兵器にも等しい禁断の兵器である。
まさか、私がそんな事をするはずが無い・・・

しかし、冷静に考えると説得力はある・・・というかそれしか無い

私は熱中のあまり敵を見ながらダンゴを作っていたので
石が混入したダンゴを知らずに作って投げてしまっていたのだろう・・・
証拠があるワケでは無い、もう泥ダンゴは木っ端みじんに
なってしまっているのだから・・・
でも、そうとしか考えられなかった。

ごめんなさい、わざとじゃないんです!
ホントにわざとじゃないんです


必死に謝る・・・が、理想郷で核兵器を使用した私に
周囲の冷たい視線がつきささる・・・

そうこうしている間も出血は止まらない
血はぶしゅーっと吹き出ているワケではないが
ポタポタと髪の毛を伝って次々に流れ落ちている・・・
異常だ、明らかに異常だ

外で遊んでいれば、多少の出血など珍しくは無いのだが
それは
ひざ小僧からの出血であって
後頭部からの出血などは、それまでライブで見た事なんて無かった。

当時の私にとって、頭部から血が流れるのは
アニメやドラマだけの世界・・・。
そして、頭から血を流しても助かるのは
主人公だけであって、脇役が頭から血を流したら
速効で死んでしまうのである。

私は恐る恐る、彼の顔をのぞき込んだ

どう見ても脇役だ!!

主役には程遠い・・・・
このままでは彼は死んでしまう!
マジでそう思った。
しかし、私には謝る事くらいしかできない・・・

周囲の人間はみな凍りついていたが
幸いな事に、
脇役の彼は意識がハッキリとしていて
痛みもそれほどでは無いようだった。
本人には出血が見えないので、冷静だったし
歩く事もできたので、とりあえずは家に帰って
様子を見ると言う事になった。

私は友人に付き添われて帰る彼の背中に向かって祈っていた

どうか死にませんように!

冗談では無い、当時の私は本気でそう思っていたのである
彼は振り替えらずに、空き地の横の路地に消えていった
そう、一抹の不安と共に・・・・


↑この路地に消えていった・・・



<数日後>

私は友人の家に遊びに行く為に、例の空き地の前を通りがかったのだが
そこで再び私を震撼させる衝撃の光景を目にすることになる。

先日の流血騒ぎで、
脇役の上級生がどうなったのか気になっていた私は
ふと、彼が帰って行った路地を見た、すると・・・・
なんと、路地の奥では
葬式をやっていたのである!

・・・・・殺ってしまった!
私のおそまつな脳はそう思い込んだ。
あの人はやっぱり主役にはなれなかったのか・・・
加害者の僕を責める事もしない・・・いい人だったのに・・・
嗚呼、私はとうとう人を殺してしまった・・・

くどいようだが、当時は本気でそう思ったのである
そして私は怖くなってその場から逃げだした
どうしよう! そのうち警察がウチに来てしょっぴかれてしまう!
そうなったら僕はどうなってしまうんだろう・・・

その日から、恐怖の日々が始まった。
いつ警察は私を逮捕しに来るのか・・・・
(自首などこれっぽっちも考えない!)

オドオドしながら数日が経ったが、警察はいっこうに来ないし
小学校でも
「生徒が泥ダンゴで殺された」
という爆笑ニュースは耳にしなかった。
ひょっとして葬式は偶然だったのかな? そう思い始めた私だが
その後、
脇役の上級生を学校で見かける事もなかった・・・

こうして、彼が死んでしまったかどうか分からないまま
月日は経って、この事件はだんだん私の記憶からは薄れていった・・・
(人を殺したかもしれないのに!)




<数年後>

私は中学生になりテニス部に入部した
小学生の頃は
キャプテン翼の影響でサッカー部に入ると豪語していたが
この頃にはスカイラブハリケーンが実際には出来ない事に気づいていたので
サッカー部は却下。

代わりに「比較的楽で
将来笑われない部活を」と言う軟弱な理由で
テニス部に入部したのだが、
そこで思わぬ再会を果たす事となる。

そう、
生死不明だった脇役上級生がテニス部で元気にラケットを
振っていたのである!

私は喜んだ
人知れず喜んだ

私の心の中にある
罪悪の部屋から一つの罪を追い出す事が出来た瞬間だった。

数年前に泥ダンゴに石を混ぜてゴメンなさい
それから脇役って決めつけてすいません


私は心の中で謝罪をした
いきなり
「よかった、生きておられたんですね!」
などと前線の兵士のように話しかけたら、さぞビックリしてしまう事だろう
中学生の会話としては修羅場をくぐり過ぎている

何より本人は自分が戦死扱いになっているとは夢にも思わないだろう・・・
だから私は心の中で、数年前の殺人未遂事件について、そっと謝罪したのである。

こうして事件は迷宮入りを逃れて、無事解決したのだった

これは余談だが、解決と共に2つ分かった事がある。
1つは被害者の先輩が私を覚えていなかった事
これは大いに結構な事である、この瞬間に時効が成立した事になるのだ。


そして
2つめは、先輩のテニスの腕はやっぱり脇役だったという事である。

↑流血の空き地は現在マンションが建っている

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